伊東温泉の花街 戦前

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　東海館

昭和39年『カメラルポ 温泉芸者 お座敷ゲームとモテる遊び方』浪江洋二編によれば、伊豆温泉地には、熱海、伊豆山、南熱海、伊東、熱川、片瀬、稲取、河津、下田、畑毛、三島、伊豆長岡、韮山、大仁、修繕寺、湯ヶ島、吉奈、峯、大島と19もの花街があり、夫々に検番を持ちました。

その中で、全国の花街にも温泉にも実際足を運び、当時の繊細にして多くの情報を今に伝える松川二郎は昭和四年刊『全国花街巡り』で伊東を取り上げています。

この著作で選んだ全国120余箇所の花街の中で、彼が選んだ温泉花街は道後、別府等10箇所あまり、その中で伊豆では熱海を抑え伊東温泉を載せたのは、彼の心を捉えるものが伊東にあったはずです。

松川二郎がこれに先立つ昭和二年に出版した『名勝温泉案内』の伊東温泉の項では、伊東温泉はその泉量の豊富なること伊豆第一で、東の別府とも称され、一万三千三十余の人口に、十数軒の旅館、百個に余る貸間業者があると述べています。

さて、伊東の花街は市街の西部、劇場や活動館などの集中している猪戸町にあり、芸妓屋（置屋）6軒に芸妓大小（即ち、芸妓、舞妓）合わせ25人、料理屋46軒、待合12軒、そして伊東の特徴として芸者は転ばず、金では相手にならない芸のみを売るという、他の温泉とは芸者の役割が違う状況で、松川が伊東を挙げたのはまさにこの点だと思います。

芸妓が入るのは、料理店か待合で、旅館に呼ぶ場合には当時としては警察の了解がいるとの事、これは芸妓が人数から考えても地元中心の客を相手にしていたからだと思います。

そして、昭和の初め頃、東京方面から客が増加、団体客の宴会も増え、芸妓の需要も増してきたのでしょう。

主なる待合として竹葉、御舟、浮月、料理店は小料理屋ばかりで特筆に値する家はないとの事でした。

伊東の芸妓の特色は、湯の町気分でのんびりとしているところで、芸妓臭くなく、しろうと遊ぶ趣があったと言います。

そして誰が客を取るかといえば、多くの酌婦がその任にあたりました。昭和六年、内務省警保局の『公娼と私娼』によると、静岡の私娼地四か所の内三か所が伊東町で、松原鼓新地の料理屋、待合9軒に私娼39人、松原キネマ小路に同7軒、24人、松原伊東劇場付近に同6軒、24人、この87人が酌婦の名目で、料理屋、待合におりました。