京都パンパン赤線時代 二十六

夕刊京都新聞、昭和25年5月20日に

『亡き母の“愛情”を胸に、転落の17少女が更正の手記、汚れた身にも光、孤独の悲しみ越え平和に生く』

の長い見出しの記事が載ります。

前半を要約すると、両親は東京の深川で大きな工場を経営、好きなものは何でも自由に手に入った乙女が、戦争で空襲が激しくなり新潟県に学童疎開、終戦後両親が空爆で亡くなったのを知り、十四歳のとき疎開先で引き止められものの抜け出して上野駅にたどり着き、地下道や山の方で寝る生活を始めた。

当時上野駅附近には、彼女のような環境の子供や大人が沢山いて、ある日知らない年上の女の子から“私達の仲間に入らない？チャリンコをしようよ”と誘いかけられた。そしてチャリンコとはスリの事と知りました。

以下は後半の文面です。

「そのうち知り合った一人の男の親切に交際するうち二人で京都に来て、七条のあるソバ屋に下宿しましたがその人が下宿の衣類を持逃げして警察にあげられたので、いたたまれず迷っていると姉さん風の人に“いい仕事があるから”と案内されたのが七条内浜のパンパン屋だったのです、身寄りのなく生活にも困っていた時だったのであきらめる気持で遂に恥しい生活に足をふきこんだのです、大体一泊三千円で一ヶ月相当の収入もありましたが市警のキャッチされてからH病院―S寮―逃走―キャッチ―H病院・・・・と繰返し三度目にいまのS寮に来たのが昨年二月の末でした。

もとより更正する気などありませんでしたが、寮の先生達の心からの親切やあたたかい言葉にホット我にかえり何故かすさんでいた私の心をうるおしてくれました、そうだった、私はやっぱり母親の愛情にうえていたのでした、真実一路に生きよう、それが死んだ両親を安心させる唯一の道なのです、ああ、のろわしい戦争！全ては悪夢だったのだ、だがいまの私のはるかかなたに一るの光がさしはじめています、生きましょう」

これはこの月五日から十八日まで全国一斉に展開された青少年保護育成運動を受けて企画された記事だと思えます。

同じく夕刊京都新聞　昭和25年5月30日

『遊興街盛衰記　芸者はアカンわ　席貸も半減、花形は麻雀へ』

同記事によれば、東山一体の遊興地域、祇甲、東新地、宮川町、下河原、安井、高台寺に千五百余軒の業者が終結しており、この一年の様子を見てみると

お茶屋６６７（減６）
席貸１２２（減１５）
料理屋１３５（減１８）
カフェー１３（増４）
飲食店３１０（減１８）
喫茶６０（減１２）
旅館１４０（増１６）
キャバレー２（減１）
ダンス教習所６（減３）
遊技場６４（増２３）
雇仲居置屋１４（増減無し）

接客婦は

芸者４９１（減１１２）
女中４０５（減５８）
雇仲居１４８（減４２）
女給６５（増１５）
ダンサー６８（減４６）
街路婦１８０（管内定住２５）

時代の花形は手軽に遊べる麻雀、パチンコ屋、ついで中年層の出入りするバー式カフェーとなっており、旅館業の増加はお茶屋、席貸の転業と見ている。

安井、下河原では半数の席貸が休業、カフェー、遊技場、旅館、それに伴う女給が増加、芸者、ダンサー、女中が多数減少としています。

松原署保安少年係の調査によれば、昭和二十四年中、虚栄心から街路婦に転落した少女も少なく無く、一ヶ月数回行なわれる取締りのかかわらず、その数は一定しており、芸者、女中、雇仲居、ダンサーから１０％が街路婦に流れたと見られており、同係りから家庭裁判所や紫草苑に送られた女性は７７人に上っていたとの事でした。

それにしても街路婦１８０人の内管内定住２５人と、松原警察側では全てお見通しだったようです、