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上七軒ぞめき その八

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                    上七軒の芸妓さん、梅花祭にて              

上七軒の青楼に告ぐ 乾玉山人

“上七軒は日に日に盛況を呈せり、吾輩も亦た上七軒の遊客の一人なり。如何に上七軒とは云いながら、青楼の不注意なる向多し。吾輩の常に感服せざる事多し其は他にあらず。芸妓に貰ひの多い之なり。

貰ひとは纒頭(ぽち)の貰ひを云ふにあらず。例へば、甲客が一人の芸妓を招く時、其芸妓其客の座へ来り座して一言二言咄すかと思ふ間もなく一寸誰々さんをお貰ひ申ますとて其芸妓を連れ行く、次に又一人の芸妓を招く是亦た同様の事あり。

之を貰ひと称すとか、此貰ひの都度、花は踊って十本が十五本となる事あり、甚だしきは態(わざ)と花を踊らす為めに此貰ひをして、又暫時して出て来たり再び貰ひをなす。一人にして幾度も此の如き事と為す時は、貰ひの為め踊る花は実に多しと、之れ上七軒第一の弊害ななり。

之れを改良せざれば上七軒の盛況の実を見る甚だ難し。併し芸妓不足なればと弁ずれば夫れ迄なりとも。能く其内情を知るものは此口実を以て瞞着されては居らぬなり。

次に貸座敷にて、座敷に野風呂を置く向の少なさ。之が娼妓処ろならば、其様な事を言ふに及ばざれども、常に芸妓の客を以て重とす、即ち散財客の多き上七軒の貸座敷に、其等の備へ不完全なるを以て何時も酒の燗はぬるく、又た間の抜ける事多し。宜しく注意して少し座敷の体裁―客に不快を与えぬ様ありたき事なり。聊か感ずる処ろあり花柳誌に投じて上七軒の青楼に注意を促す事然り。”

貰いはとは、その芸妓の旦那の特権で、旦那になると総て検番に登録され、この登録された旦那から、他の座敷へ出ている芸妓へ貰いがかかると、どんな事があってもお茶屋はその芸妓をその旦那の元へ芸妓を帰さねばなりませんでした。

芸妓を呼べばしょっちゅう貰いがかかり、いつもぬる燗を出され、自分の意に沿わねばペンネームで雑誌に苦情を寄せる乾玉山人は、上七軒にとって歓迎されざる、扱いにくい遊客だったのかもしれません。


上七軒の多楼(おおのろう)

“上七軒の貸座敷中、多楼と云うは彼の多(おおの)たきの実家なり。構造左して大ならざれども、此土地では先ず屈指の青楼なり。座敷の清潔なるが上、離れ座敷あり、殊に庭園には四季の草木繁茂し、誘客をして時々運動せしむに足る。此楼に一の名ある座敷あり。

其は傘の間と唱へ天井の傘形となり居るが故なるべし。就中遊客をして座興を増さしむるは仲居お愛にあるなり。お愛年未だ二十才の上を一ッ二ッ・・・・・実に其名に背かざる愛嬌物なり。

尚ほ、此お愛女の外にお榮女と云へる年齢十五歳の娘の時々宴席に酌す。其美其愛後世多望の女子と云うべし。まだ此外にお絹といふ別嬪あり、客の足繁亦無理なし。”

抜粋:明冶二十七年、雑誌花柳より


by gionchoubu | 2015-08-20 16:14 | 上七軒 | Comments(0)