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花街あれこれ *このブログに掲載されている写真・画像を無断で使用することを禁じます。


by gionchoubu

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遊里におけるお歯黒 その五

遊里におけるお歯黒 その五_f0347663_14394748.jpg
                   右のお屋敷が若胡屋です。

若胡子屋の花魁、八重紫が、今日も一人のお大尽客に多額の金をもらってお歯黒を付けることになった。

廓の風習で大尽客は相手にお歯黒を付けさせて女房気取りにするのが誇りであり、そうさせなければ大尽客として持て囃されなかった。

花魁には何時もかしづいて用たししてくれる禿がいた。今日も、言葉優しく、

「花魁エー お歯黒つけなんせ」

と、言ってお歯黒壺を差し出した。それを受けとって羽根筆でつけたが、どうしたものか、其の日に限ってよく付かぬ。

外のお歯黒壺と取り返させたが、どうも思うように黒く染まらぬ。金の威光で客はしきりに催促する。

花魁も気が気でなく苛立ち、疳は高ぶり、雪かとまがう厚化粧の顔には、青い筋さえ浮かんできた。

火鉢の側で様子を見ていた可愛い禿は、小さい胸を詰まらせ、目からは涙の露さえ光って、不安におびえ震えていた。

「エーイ 口惜しい!」

と、絹を裂くような声、煮えたぎったお歯黒は禿の口へ注ぎ込まれた。

禿は忽ち虚空をつかんで悶え、食いしばった唇の間から、お歯黒混じりの黒血が流れ、恐ろしい形相で事切れた。

それから花魁八重紫は良心の呵責に責められてか、禿の恨みか、鏡を見る度に禿の姿が映り、

「モーシ花魁え、お歯黒付けなんせ」

と、其の声に幾度か気を失った事か、流石に今全盛の八重紫も、若胡子屋にいたたまれず前非を悔い、死んだ禿の回向を思い出し、四国八十八ヶ所廻りを発心し、今治まで渡った時、

「此処から一人で行きなんせ。」

と言って禿の姿は再び現れなくなった。

若胡子屋は今、御手洗会館となり、古びた壁に、禿が苦悶して吐いた黒血の痕が残っている。

その後幾度か塗り替えたても、いつの間にか黒血が浮かび上がってくると言います。

参照:前回と今回は『串茶屋 遊女を偲ぶ6』遊女の墓保存会(非売品)の港町と遊女屋を参照させて頂きました。今回の話はほぼ転載させて頂いております。

*江戸期、遊女がお歯黒をした理由は太線の内容によるものと思います。

遊里におけるお歯黒 その五_f0347663_14410636.jpg
                若胡子屋の一階です。奥に見えるのは色籠だと思います。










by gionchoubu | 2015-03-10 14:42 | 遊郭・花街あれこれ | Comments(0)