先斗町ぞめき 三

先斗町は、高瀬川で大阪と京を結ぶ水路の終着地でもあり出発地でもあるという舟運で栄えた町としてつとに有名ですが、東海道で江戸と京都を結ぶ五十三次の終着地、さらにここから大阪まで五十七次の宿駅でもあり、水路と陸路の大いなる拠点として、さぞや富が蓄積し、繁盛したことでしょう。

しかし当初豪商、役人などは鴨川を渡った祇園にながれ、先斗町の女は、所謂街道旅籠の遊女化した飯盛女とさほど違いがなかったのは、享和二年(1802)、滝沢馬琴の見聞録『覊旅漫録』の中巻で「先斗町につくしわたと称する私窠あり。わたぼうしとなづく。昔綿帽子屋あり。この妓出せしと云う。今猶先斗町の北角に綿帽子屋あり。此綿帽子は旅宿へも招く。又貸座敷へ一月雇にもするなり。価いやしき醜婦ながら、其の名は雅びに聞ゆ。総て旅人逗留中、一ヶ月金二分を費やせば一月雇の妾なり。この者食飲に給仕し、又縫刺のことをなし、夜は枕席をすすむと云う。是は素人なり。この地尤も荒淫なり。」と述べています。

緑江さんは、旅商人などが、この綿帽子を雇うのですが、客が商売から宿に帰ると、すっかり女房気取りで、入浴を共にして、夕食の酒の相手もし、三味線まで弾いたと書いています。江戸時代、寛政二年(1790)祇園、二条、七条、北野に遊女屋が正式に認れれるまで、伏見の撞木町は例外とするも、基本京都の公許の遊廓は嶋原（とその前身である六条三筋時代の廓）で、祇園の歴史もそれまで非公認の遊女、所謂茶屋女のそれで、非合法なるがゆえ取締りの対象となり、前年の寛政二年にも、京都市に蔓延った私娼千二百が嶋原に送られる（通称島流し）という手入れが当局によって行なわれたのですが、当然先斗町の綿帽子（つくしわた）も含まれていたことでしょう。

先斗町の悲哀はこの公許の遊廓に含まれなかった事で、この時も公使に対し、遊女公許を請願しましたが認められませんでした。その理由として、その位置があまりにも中央依りであったのではないか、と複数の書物で書かれていますが、先斗町を日本全国の遊里の一つとして類型を求めれば、宿場型の要素を多分に持っていますので、日本全国に江戸期２００はあったであろう宿場の非合法遊里が幕府の目の敵であった事を考慮にいれれば、ひょっとしたらそういう側面もあったのかもしれないと私は考えています。

しかし、鴨川を眺め、東山三十六峰が見渡せる一等地なれば、遊客の絶える事なく、その後寛政から享和へかけ頗る繁盛したといいます。